受け継がれる音づくり――アストロ電子企画と兼佐氏が残したもの

受け継がれる音づくり――アストロ電子企画と兼佐氏が残したもの

ASTOR・アストロ電子企画――兼佐氏が残した真空管アンプと音づくり

2026年6月、アストロ電子企画の代表を務め、ASTORブランドの製品設計・製造を長年にわたり手掛けてこられた兼佐氏が逝去されました。

ExAUDIOでも長くその製品を取り扱ってきただけに、この知らせは大変残念なものでした。改めて、兼佐氏の生前のご功績を偲び、心より哀悼の意を表します。

ASTORというブランドを振り返ると、そこには大手メーカーとはまったく異なるオーディオづくりがありました。

回路を設計し、部品を選び、組み上げ、最後の調整まで行う。兼佐氏自身がこうした工程に深く関わり、一台一台の製品を完成させてきました。メーカーというよりも、「工房」という言葉の方が近かったのかもしれません。

目に見えないところまで作り込む

ASTORのアンプを象徴するもののひとつが、そのシャシーです。

鏡面仕上げされた厚いステンレス材や、モデルによっては内部の部品取付板に無酸素銅を用いるなど、一般的なオーディオ機器ではなかなか見られない構造が採用されています。

例えば300Bモノラルパワーアンプでは、1.6mm厚のステンレスシャシーに加え、内部には1.5mm厚の無酸素銅板を採用しています。

これは単に高価な材料を使うためではなく、筐体の剛性を高め、トランスや真空管、外部から伝わる振動の影響を抑えることを目的としたものです。

厳選した部品を使用し、手作業による空中配線で一台ずつ時間をかけて仕上げる。そして、特にシャシーの構造や材質に妥協しない。

外から見える真空管や鏡面仕上げの美しさだけでなく、その下にある構造まで音質の一部として考える。

こうした考え方こそ、ASTORの製品に一貫していたものだったと思います。

回路だけではなく、電源とトランスまで

真空管アンプでは、使用する真空管や回路方式が話題になりがちです。しかしASTORでは、それと同じくらい電源部やトランスを重要視していました。

上位モデルには独自のトランスが組み込まれ、AST-2000VIPプリアンプではオリジナルトランスと6SL7GTを3本使用し、PHONO入力を含む本格的な構成を採用しています。

音量調整にも一般的なボリュームではなく、21接点の抵抗式アッテネーターを用いるなど、信号が通過する一つひとつの部分まで作り込まれています。

パワーアンプなどでは、そのこだわりはさらに電源容量にも及びます。

自己バイアス回路で一般的に使用されるものを大きく上回る容量のコンデンサーを投入し、自己バイアスの扱いやすさを残しながら、固定バイアスに迫る力強さと安定性を狙う。

そこには、「どの方式を採用したか」というスペック上の分類ではなく、「最終的にどう鳴らしたいのか」を優先する兼佐氏の考えが表れていたように感じます。

300B、KT88、6L6、5881、6SN7など、ASTORがさまざまな真空管を使ったアンプを製作してきたのも、単にラインアップを増やすためではなく、それぞれの球が持つ個性をどう引き出すかという試みの積み重ねだったのでしょう。

微小な信号にも向けられたこだわり

ASTORの仕事はアンプだけではありません。

アナログ再生では、MCカートリッジ用の昇圧トランスも製作していました。

MC-999NSAでは、12Ωで20倍・26dB、3Ωで40倍・32dBという二つの昇圧設定を備え、出力の非常に小さなMCカートリッジの信号を適切に受け取るための専用設計が行われています。

MCカートリッジから送り出される信号は極めて微小です。その僅かな信号をどれだけ損なわず次段へ渡せるかは、アナログ再生の音を大きく左右します。

大きな出力を扱うパワーアンプから、こうした微小信号を扱う昇圧トランスまで手掛けていたことからも、ASTORがオーディオシステム全体を見て製品を作っていたことが分かります。

スピーカーにも共通するASTORの思想

そして興味深いのが、ASTORのスピーカーです。

アンプメーカーが作ったスピーカーらしく、特に重視されているのが「能率」と「反応の速さ」です。

SP-2000WSTではスペインBeyma製の高能率プロフェッショナルユニットを採用し、能率は96dB。SP-1602WSTでは100dBという非常に高い能率を実現しています。

出力の小さなシングル真空管アンプでも、音楽のダイナミズムや細かな表情を失わず鳴らせることを意識した設計です。

さらに内部ネットワークではコイルを使わず、コンデンサーを中心とした構成を採用。エンクロージャーには厚いラバーウッド集成材、バスレフポートには無酸素銅を使用するなど、ここでも材料と構造に対する徹底した姿勢を見ることができます。

アンプとスピーカーは別々の製品でありながら、そこに流れている思想は同じです。

余計な振動や損失を抑え、信号にできるだけ手を加えず、音楽のエネルギーを素直に取り出す。

それがASTORの音づくりだったのではないでしょうか。

兼佐氏が残した最後のASTOR製品

ASTORの製品は、兼佐氏自身による設計、製造、そして最終的な調整によって成り立っていました。

そのため、残念ながら従来と同じ形でブランドを継続し、新たな製品を製造していくことは極めて難しい状況となっています。

現在ExAUDIOに残されているASTOR製品は、いわば兼佐氏が残した最後の製品群です。

真空管パワーアンプ、プリアンプ、昇圧トランス、高能率スピーカー。それぞれを見ると、鏡面ステンレスのシャシー、厚い内部構造材、大容量コンデンサー、独自トランス、高能率ユニットなど、これまで兼佐氏が追求してきた考え方が随所に残されています。

今となっては、同じものを新たに作ることはできません。

当店では現在確保している製品について、在庫限りの特別価格で販売しています。

なお、すべて日本国内向け100V仕様となり、今後メーカーによる保証、点検、修理を受けることはできません。そのためExAUDIOにてご購入日から6か月間の保証をお付けしていますが、故障内容や部品の入手状況によっては修理ができない場合があります。

こうした事情も含めた上での特別販売となります。

決して万人向けのオーディオ製品ではありません。

しかし、大量生産ではなく、一人の設計者が自らの経験と耳を頼りに、回路、部品、トランス、筐体、そして振動対策まで妥協せず作り込んだ製品には、現代のオーディオとはまた違った魅力があります。

兼佐氏が長年追い求めてきた音は、その仕事を知る人の記憶だけでなく、残された一台一台のASTOR製品の中に、これからも生き続けていくのだと思います。

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改めまして、兼佐氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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